2006年10月26日
オオサカ シリアス ナイト
その10
道頓堀にほど近い場所に「エスト」というゲーム喫茶があった。パチンコ屋が立ち並ぶメインの通りから少し離れた雑居ビルの地下にあり、一見では入れないような雰囲気が漂う怪しげな喫茶店であった。
地下に入る入り口に「ゲーム喫茶エスト」書かれた看板があり、狭い怪談を下りて行くと、突き当たりに入り口があった。中に入ると昼間でも薄暗く、常連らしき人物が二人、三人、ゲームに興じていた。
カウンターと四人がけのテーブルが七つ、テーブルにはすべてゲームがついている。入り口の狭さからは想像出来ない意外に広い店内に驚かされる。
道頓堀にほど近い場所に「エスト」というゲーム喫茶があった。パチンコ屋が立ち並ぶメインの通りから少し離れた雑居ビルの地下にあり、一見では入れないような雰囲気が漂う怪しげな喫茶店であった。
地下に入る入り口に「ゲーム喫茶エスト」書かれた看板があり、狭い怪談を下りて行くと、突き当たりに入り口があった。中に入ると昼間でも薄暗く、常連らしき人物が二人、三人、ゲームに興じていた。
カウンターと四人がけのテーブルが七つ、テーブルにはすべてゲームがついている。入り口の狭さからは想像出来ない意外に広い店内に驚かされる。
「いらっしゃい」赤い髪の毛が不潔な印象を与えるバーテンは、客の顔を見ずにひとり言のように言う。席に座ろうとすると小柄だが巨乳のウエイトレスがゆったりとした歩き方でやって来て「何なさいますか」と聞いた。
「コーヒー」。そう言うとウエイトレスは「ホットでいいですね」と確認し、バーテンに向かって、「ホットお願いします」と言った。
ぬるいコーヒーだった。まったく美味しくない。一口飲んで英子は、カップから口を離し、立ち上がるとバーテンの元へと歩いた。
「すみません。人を捜しているんですけど、こんな男の人、こちらで見かけたことはありませんか」
バーテンはタバコを口にくわえたまま、煙たそうな顔で英子が差し出す写真を手に取った。
「カズじゃないか…」
赤い髪のバーテンは、写真から目を離し、英子を見た。
「その人、知っているんですか?」
「ああ。この店の常連だ。でも、あんた、なんでカズのこと探しているんだ」
男の手から写真を受け取った英子は、バーテンの言葉には応えようとせず、
「知っているようでしたら有り難い。この人、最近、見かけませんか」
カズと同い年ぐらいの年齢であろうバーテンは、英子をなめ回すように見つめながら、
「あんたかい、カズと付き合っているという年増の女は」
と言って笑った。
「見かけた、見かけない。どちら。それだけ聞きたいの」
「わかった、わかった。そう慌てるなよ。それにしてもあんた、いい女だねえ。カズなんかよりおれと付き合わないか。おれのほうがずっといいこと教えてあげられるぜ」
英子は黙ってバーテンを見つめた。その目に射られて、バーテンは少したじろいだ。
「オーライ、オーライ。思い出すからちょっと待って。えーと、そうそう、あいつ、ここ二、三ヶ月、姿を見せていないんだよな。急に現れなくなって…、おいっ、良子」
バーテンに呼ばれたウエイトレスが怠惰な感じで「はい」と返事をした。
「おまえ、カズのこと知らないか? おれは近頃見てないんだ」
「カズさんですか…。見ましたよ」
「えっ…!」
英子は思わず声を出した。
「どこで? いつ見たの?」
「一ヶ月前だったかなあ。堺筋の通りで、カズさん、クルマに乗っていたわ」
「一人だった?」
「いえ、よくわからなかったけど、二、三人一緒にいたみたい。でも…」
「でも、どうしたの? 何かあったの?」
「いえ、私が『カズさんっ』て呼んだんだけど、返事をしてくれなかった。おかしいなああと思って…」
「どうして?」
「カズさん、私の声が聞こえたようで振り向いてくれたの。でも、何も言わなかった」
「おびえた様子だった?」
「うーん、そこまではわからないけど、背広姿の人たち三人に囲まれてクルマに乗っていたからね。あの人たち誰なんだろうと思ったわ。見たことのない人たちだったから」
「その男たちの年齢は?」
「運転していた一人はカズさんと同じ年ぐらいかな、後の二人は三十代半ばといったところね」
「堺筋だから北の方へ走って行ったのね」
「ええ、そうよ。梅田の方角へ走って行ったわ」
それだけ聞けば十分だった。
「どうもありがとう。また、もしカズを見かけるようなことがあったら、私の携帯に電話してくれる? お礼はするわ」
そう言って英子はウエイトレスに二千円を渡し、バーテンにもコーヒー代金の他に余分に千円を手渡した。
「コーヒー」。そう言うとウエイトレスは「ホットでいいですね」と確認し、バーテンに向かって、「ホットお願いします」と言った。
ぬるいコーヒーだった。まったく美味しくない。一口飲んで英子は、カップから口を離し、立ち上がるとバーテンの元へと歩いた。
「すみません。人を捜しているんですけど、こんな男の人、こちらで見かけたことはありませんか」
バーテンはタバコを口にくわえたまま、煙たそうな顔で英子が差し出す写真を手に取った。
「カズじゃないか…」
赤い髪のバーテンは、写真から目を離し、英子を見た。
「その人、知っているんですか?」
「ああ。この店の常連だ。でも、あんた、なんでカズのこと探しているんだ」
男の手から写真を受け取った英子は、バーテンの言葉には応えようとせず、
「知っているようでしたら有り難い。この人、最近、見かけませんか」
カズと同い年ぐらいの年齢であろうバーテンは、英子をなめ回すように見つめながら、
「あんたかい、カズと付き合っているという年増の女は」
と言って笑った。
「見かけた、見かけない。どちら。それだけ聞きたいの」
「わかった、わかった。そう慌てるなよ。それにしてもあんた、いい女だねえ。カズなんかよりおれと付き合わないか。おれのほうがずっといいこと教えてあげられるぜ」
英子は黙ってバーテンを見つめた。その目に射られて、バーテンは少したじろいだ。
「オーライ、オーライ。思い出すからちょっと待って。えーと、そうそう、あいつ、ここ二、三ヶ月、姿を見せていないんだよな。急に現れなくなって…、おいっ、良子」
バーテンに呼ばれたウエイトレスが怠惰な感じで「はい」と返事をした。
「おまえ、カズのこと知らないか? おれは近頃見てないんだ」
「カズさんですか…。見ましたよ」
「えっ…!」
英子は思わず声を出した。
「どこで? いつ見たの?」
「一ヶ月前だったかなあ。堺筋の通りで、カズさん、クルマに乗っていたわ」
「一人だった?」
「いえ、よくわからなかったけど、二、三人一緒にいたみたい。でも…」
「でも、どうしたの? 何かあったの?」
「いえ、私が『カズさんっ』て呼んだんだけど、返事をしてくれなかった。おかしいなああと思って…」
「どうして?」
「カズさん、私の声が聞こえたようで振り向いてくれたの。でも、何も言わなかった」
「おびえた様子だった?」
「うーん、そこまではわからないけど、背広姿の人たち三人に囲まれてクルマに乗っていたからね。あの人たち誰なんだろうと思ったわ。見たことのない人たちだったから」
「その男たちの年齢は?」
「運転していた一人はカズさんと同じ年ぐらいかな、後の二人は三十代半ばといったところね」
「堺筋だから北の方へ走って行ったのね」
「ええ、そうよ。梅田の方角へ走って行ったわ」
それだけ聞けば十分だった。
「どうもありがとう。また、もしカズを見かけるようなことがあったら、私の携帯に電話してくれる? お礼はするわ」
そう言って英子はウエイトレスに二千円を渡し、バーテンにもコーヒー代金の他に余分に千円を手渡した。
Posted by ゆーじゅん at 10:17│Comments(0)
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