2006年11月14日
オオサカ シリアス ナイト
その17
「光一は実の弟じゃなくて、異母弟なの。私の実の母が家を出て、その後に迎えた女性との間に生まれたのが光一でね。でも、光一の母は、光一を産んで三ヶ月も経たないうちに事故で亡くなってしまって。私と光一とは年が十歳も離れていて、それから後は私が母代わりで光一の面倒をみてきたわ…」
そこでママは一息つくと、店のホステスに「千夏ちゃん、お客さんにおしぼり出してあげてね」と指示し、再び話し始めた。傍らで遠野も興味深く話を聞いている。
「光一は実の弟じゃなくて、異母弟なの。私の実の母が家を出て、その後に迎えた女性との間に生まれたのが光一でね。でも、光一の母は、光一を産んで三ヶ月も経たないうちに事故で亡くなってしまって。私と光一とは年が十歳も離れていて、それから後は私が母代わりで光一の面倒をみてきたわ…」
そこでママは一息つくと、店のホステスに「千夏ちゃん、お客さんにおしぼり出してあげてね」と指示し、再び話し始めた。傍らで遠野も興味深く話を聞いている。
「光一が中学生になったころ、家を飛び出していた私の実母が突然やって来て、父に復縁を迫り始めたの。男を作って勝手に家を出て行きながら男性遍歴を重ねた末、父の元に舞い戻って来たのね。私は激怒したわ。十五年余りも音信不通で、子供を捨て、家を捨てておきながら今さら舞い戻って来るなんてどんな了見しているの、そう言って追い出そうとしたの。でも、父は、可愛そうだから、そう言って母を迎え入れてしまった。結局、それが引き金になって光一は家に寄りつかなくなるし、私も家を飛び出るしで、家庭崩壊につながってしまった。母は、父が病気で入院したのを幸いにして、父の貯金をあらかた引き出して再び失踪、父は失意のうちに病院で亡くなったわ」
英子はママの話を聞きながらカズ…、いや光一のことを考えていた。彼女には、彼が名前を偽り、素性を隠して自分と付き合ったわけがまだわからない。
ママの話はなおも続いた。
「母を捜し出して、父の墓前で謝らせてやる。そう誓ったけれど、未だに母の行方はわかっていないわ。光一は中学二年の時に家を飛び出し、一年後に補導されてみるも無惨な姿になって家に戻って来たわ。彼はやせて顔色が悪く、一目で薬をやったなってわかる姿をしていた。光一はまだ十二歳、なのに彼はもう立派なシャブ中になっていたのよ。どこかで拾われてそこで打たれたんでしょ。それから後が大変だった。私は父を恨んだわ。なぜ、あんな女を迎え入れたのかって…」
「光一くんはそれからどうしたんだい。きっと大変だっただろう」
遠野警部が水割りを口にしながら言うと、ママはふと遠くを仰ぎ見るような目で店内を見つめ、
「地獄だったわ…」
ため息を一つついた。
「結局、光一は病院の精神科で治療をしてもらうことになった。シャブはそのうち治まったけれど、精神が元に戻らなかった。荒廃したまま…」
「お言葉ですけどカズは…、いえ、光一さんには、私が知っている限り、そういったところはまるで見られないようでしたけど」
英子が言うと、ママは、
「そうよね。きっとわからないと思う。かなり回復したはずだから。でも、本当はそうじゃないの。私と光一の喧嘩の原因もそこにあるのよ」
英子の目がママを見つめる。遠野も同様に興味ありげな視線を向ける。店内は人の入れ替わりが激しい。新しい人が入って来て、今までいた人が帰る、繁盛している様子がうかがえる。
「病院に再入院するよう言ったの。そしたら怒ってね。人を病人扱いすると言って。彼は自分の病気がわかっていないの。だから…」
「それで弟さんは出て行ったきり帰ってこないというわけか」
遠野の言葉に呼応するかのように、ママが応える。
「そうなの。また病院に入れられると思ったんでしょうね」
「でも信じられません。私の前ではそんなそぶり一度も見せなかった…」
英子はカズを思いだしていた。考えても考えてもカズにはそんな様子がなかった。
「弟さんの病気というのはどんな状態なんですか? それを教えていただけませんでしょうか」
英子の問いにママはためらいつつ、
「話していいものかどうか…」とうつむいた。
「ママ、話してあげなさい。そうすれば弟さんの行方を探す手助けになるかもしれん」
遠野の声でママは頭を上げた。
「…、わかったわ。お話しましょう」
そう言ってママは、あらためて英子に向き直り、その手をつかんだ。
英子はママの話を聞きながらカズ…、いや光一のことを考えていた。彼女には、彼が名前を偽り、素性を隠して自分と付き合ったわけがまだわからない。
ママの話はなおも続いた。
「母を捜し出して、父の墓前で謝らせてやる。そう誓ったけれど、未だに母の行方はわかっていないわ。光一は中学二年の時に家を飛び出し、一年後に補導されてみるも無惨な姿になって家に戻って来たわ。彼はやせて顔色が悪く、一目で薬をやったなってわかる姿をしていた。光一はまだ十二歳、なのに彼はもう立派なシャブ中になっていたのよ。どこかで拾われてそこで打たれたんでしょ。それから後が大変だった。私は父を恨んだわ。なぜ、あんな女を迎え入れたのかって…」
「光一くんはそれからどうしたんだい。きっと大変だっただろう」
遠野警部が水割りを口にしながら言うと、ママはふと遠くを仰ぎ見るような目で店内を見つめ、
「地獄だったわ…」
ため息を一つついた。
「結局、光一は病院の精神科で治療をしてもらうことになった。シャブはそのうち治まったけれど、精神が元に戻らなかった。荒廃したまま…」
「お言葉ですけどカズは…、いえ、光一さんには、私が知っている限り、そういったところはまるで見られないようでしたけど」
英子が言うと、ママは、
「そうよね。きっとわからないと思う。かなり回復したはずだから。でも、本当はそうじゃないの。私と光一の喧嘩の原因もそこにあるのよ」
英子の目がママを見つめる。遠野も同様に興味ありげな視線を向ける。店内は人の入れ替わりが激しい。新しい人が入って来て、今までいた人が帰る、繁盛している様子がうかがえる。
「病院に再入院するよう言ったの。そしたら怒ってね。人を病人扱いすると言って。彼は自分の病気がわかっていないの。だから…」
「それで弟さんは出て行ったきり帰ってこないというわけか」
遠野の言葉に呼応するかのように、ママが応える。
「そうなの。また病院に入れられると思ったんでしょうね」
「でも信じられません。私の前ではそんなそぶり一度も見せなかった…」
英子はカズを思いだしていた。考えても考えてもカズにはそんな様子がなかった。
「弟さんの病気というのはどんな状態なんですか? それを教えていただけませんでしょうか」
英子の問いにママはためらいつつ、
「話していいものかどうか…」とうつむいた。
「ママ、話してあげなさい。そうすれば弟さんの行方を探す手助けになるかもしれん」
遠野の声でママは頭を上げた。
「…、わかったわ。お話しましょう」
そう言ってママは、あらためて英子に向き直り、その手をつかんだ。
Posted by ゆーじゅん at 12:00│Comments(0)
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病院のスロープから転落 5月28日11時53分配信
<ZARD>坂井泉水さん死去 薬物乱用の影も?【<ZARD>坂井泉水さん死去 薬物乱用の影も?】at 2007年05月29日 14:48
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