オオサカジン

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2006年11月09日

オオサカ シリアス ナイト

その16

 ママは、光一と聞いて、怪訝な表情を浮かべた。 
 「いらっしゃい。光一に何かご用?」
 女性は、ママに向かって丁寧に挨拶をすると、
 「このお写真を見ていただけませんでしょうか」
 そう言って、一枚の写真をママに手渡した。
 「あら…、この写真は私の弟よ。光一がどうかしたの?」
 「……」

「立ち話もなんだから座って」
 ママに促されるようにして、女性は深紅のソファに腰をかけた。
 「お酒飲むの?」
 「いえ、お水で結構です」
 遠野警部は、カウンターで水割りをちびりちびりやりながら時々、二人の様子をうかがっている。
 「なぜ、光一を知ってるの?」
 「その前にお尋ねしていいですか?」
 「ええ、いいわよ。なんでしょう…」
 「弟さんですよね。間違いありませんか?」
 ママは、もう一度、写真を眺めると、得心がいったという感じで、女性を見上げた。
 「間違いないわ。光一よ」
 「…そうなんですか。私の知っているこの人はカズ、三宅一之というんです」
 「……」
 「半年ほどの付き合いなんですけど、デートの最中に携帯に電話がかかって、表で電話をしてくるから、そう言ってそのまま行方不明になりました。それ以後、連絡が途絶えたままで、電話もつながりません。途中、私のマンションのポストに『おねえ、助けてくれ』と血のりで書かれたカズの手紙が入っていました。だから心配で心配で…。会社を休職して探しているところです」
 ママは、女性の話を聞くと、カウンターの方へ向かって、遠野を呼んだ。
 「遠野さん。ちょっと来て」
 遠野は重い腰を持ち上げるようにして立ち上がると、ゆっくりとした足取りでママと女性のいるコーナーに向かい歩いて来た。
 「紹介するわ。こちら大阪府警の遠野警部、あなたの名前は?」
 女性はあわてて立ち上がり、バッグの中から名刺を二枚取り出した。
 「申し遅れました。矢崎英子と申します」
 「大阪府警の遠野です。よろしく。ところで、ママ、何だね」
 遠野は挨拶をすませるとママの隣に腰をかけ、英子を眺めながら訊ねた。
 「こちらがね。私の弟と付き合ってらっしゃるそうなんだけど、行方不明で連絡が取れないっておっしゃって…。でもね。どう見ても弟なんだけど名前が違うのよね」
 「じゃあ、弟さん、嘘をついて矢崎さんとお付き合いしていたのかね。でも、その行方不明というのが気になるね」
 「そうなのよ。あの子、去年、私と喧嘩してからずっと音信不通にしてるでしょ。どこにいるか、どうしているか、まるでわからなかったところに、この方が見えられて…」
 「そうか…。ミサちゃんも未だに行方不明だしなあ…」
 遠野とママの会話を聞いていた英子が、
 「すみません。よろしいでしょうか」と聞いた。
 「ええ、いいわよ。どうぞ」ママが笑顔を浮かべて応えた。
 「実は、私、カズ…、いえ光一さんのことまるで知らないんです。付き合って半年にもなるのにおかしいでしょ。だからママさんのこともまるで知らなくて。申し訳ないんですけど、ママさんは弟さんと喧嘩したということですよね。それはどんな喧嘩だったんですか」
 「ああ、それはね…」
 そう言ってママはコップの水で口の中を湿らせた。
 

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Posted by ゆーじゅん at 13:25│Comments(0)第一章
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