オオサカジン

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2006年11月17日

オオサカ シリアス ナイト

その20

 淀川大橋のたもとに立つと風の勢いがよくわかる。その夜の風は、ひとしお冷たく、また勢いもあった。この橋を渡って大和田の方へ帰る三井友彦は、コートの襟を立て、足早に橋を駆け抜けようとした。
 ちょうど真ん中辺りに来た時、三井はそこにうずくまっている一人の男性を見つけた。
 どうせ酔っぱらいが酔いつぶれて倒れているのだろうとは思ったが、この寒さでは見過ごすわけにもいかない。三井はおそるおそる声をかけた。

 「もし、大丈夫ですか?」 
 よほど飲んだのか、男は身動き一つしない。仕方なく三井は、男の肩に手をかけ、もう一度、大きな声で言った。
 「もしっ、大丈夫ですか」
 うずくまっていた男はその瞬間、ゴロンと仰向けになり、三井の足下に転がった。
 「……」
 三井はとっさに判断した。死んでいる…、と。
 深夜1時を少し回った時間である。なぜか車の往来も途絶えている。三井は、自らを落ち着かせながら携帯を使い、110番をプッシュした。

 パトカー数台を伴って警官が駆けつけ、刑事とおぼしき人物が二人、三井に挨拶をした。事情聴取は数分ですんだ。三井が帰ろうとした矢先、年かさの刑事が三井に声をかけた。
 「すみません。手に持っている携帯電話、見せていただけませんか?」
 けげんな顔をしながらも三井は快く応じた。
 携帯電話を眺めていた刑事は、三井に向かい、
 「すみません。このストラップ、どこでお求めになられましたか」
 年かさの刑事に尋ねられた三井はすぐには思い出せなかった。
 「……」
 三井が思案しているところにもう一人の刑事がやって来た。
 「警部、身元がわかりました。松田裕二、28歳。生野区在住です」
 報告を受けた警部は一瞬、顔色を変えた。
 「なにっ…? 松田裕二?」
 「ええそうです。警部、心当たりがあるんですか」
 「ああ…。娘の元婚約者だ」
 「何ですって!? みどりさんの?」
 「そうだ。確認しないといけないが娘の元婚約者も松田裕二と言った」
 二人が話しているところへ三井が割り込んだ。
 「刑事さん。思い出しました」
 二人の刑事は同時に三井を見た。
 「このストラップ、友人の紹介で行った新興宗教の集会で特別にもらったものです。このストラップを付けておけば神のご加護がある、そう聞いて、以来、ずっと付けています。でも、今のところあまり効果はありませんが」 
 「もう少し、その話、詳しく聞かせてください。申し遅れましたが、私、遠野と申します。彼は私の部下で斉藤と言います。よろしくお願いします」
 三井は、ストラップを手にしながら、やれやれ、今夜は眠れそうにないな、そう思い、ため息を一つついた。

 遠野はみどりに電話をしてよいものかどうか迷っていた。しかし、遅かれ早かれ松田の死は知れる。それなら自分の口で教えてやったほうがいい。決心した遠野は、みどりの携帯番号を慎重にプッシュした。
 「はい、お父さん。何?」
 電話の向こうでみどりの明るい声がした。
 「みどり、実は、たった今、松田くんの死体が発見された」
 電話の向こうの音声が途絶えた。無音が続く。
 「淀川大橋で、彼は刺殺体で…。きっと何かのトラブルに巻き込まれたのだと思う。他の場所で殺されて淀川大橋に捨てられたようだ。死因は出血多量によるショック死。死後五時間が経過していた」
 遠野は、無感情で無音の電話に向かって言った。
 「お父さん。なぜなの? なぜ松田さん、殺されなきゃならなかったの?」
 みどりが絞り出すような声で言うのを、遠野は切なく聞いた。
 「まだわからない。だが、必ず犯人は探し出す」
 それだけ言うと遠野は電話を切った。これ以上、失意のみどりと話をすることが耐えられなかったのだ。
 「警部、ようやくストラップの身元がわかりましたね」
 「ああ、だが、それが事件と関係があるかどうか、まだわかったわけではない」
 「そうですが…。ところで第一発見者ですが帰宅させてもよろしいですか」
 「ああ、車で丁寧にお送りしろ。世話をかけた」
 遠野は斉藤の後ろ姿を眺めながら複雑に交錯する事件を総括していた。しかし、混沌とするばかりで解決に至る糸口は一向に見えなかった。遠野はふと、そろそろあの男の出番かな、そんなことを思った。
                                   (第一章了)
 

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Posted by ゆーじゅん at 09:05│Comments(0)第一章
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