2006年11月30日
オオサカ シリアス ナイト
その1
安田美菜がその集会にはじめて参加したのは、五月のはじめ、連休半ばのことだった。折悪しく雨で、出掛けるのをためらったのだったが、誘ってくれた香山の顔を思い出し、渋々ながら家を出た。
香山は、大学時代の先輩で、美菜が密かに思いを寄せていた男性の一人だった。同じサークルということもあって親しく話をすることは出来たが、それ以上にはならなかった。なぜなら香山はサークルの人気者で、一番のモテ男であったから気持ちをうち明けることなど思いも寄らなかったからだ。 続きを読む
安田美菜がその集会にはじめて参加したのは、五月のはじめ、連休半ばのことだった。折悪しく雨で、出掛けるのをためらったのだったが、誘ってくれた香山の顔を思い出し、渋々ながら家を出た。
香山は、大学時代の先輩で、美菜が密かに思いを寄せていた男性の一人だった。同じサークルということもあって親しく話をすることは出来たが、それ以上にはならなかった。なぜなら香山はサークルの人気者で、一番のモテ男であったから気持ちをうち明けることなど思いも寄らなかったからだ。 続きを読む
2006年11月17日
オオサカ シリアス ナイト
その20
淀川大橋のたもとに立つと風の勢いがよくわかる。その夜の風は、ひとしお冷たく、また勢いもあった。この橋を渡って大和田の方へ帰る三井友彦は、コートの襟を立て、足早に橋を駆け抜けようとした。
ちょうど真ん中辺りに来た時、三井はそこにうずくまっている一人の男性を見つけた。
どうせ酔っぱらいが酔いつぶれて倒れているのだろうとは思ったが、この寒さでは見過ごすわけにもいかない。三井はおそるおそる声をかけた。 続きを読む
淀川大橋のたもとに立つと風の勢いがよくわかる。その夜の風は、ひとしお冷たく、また勢いもあった。この橋を渡って大和田の方へ帰る三井友彦は、コートの襟を立て、足早に橋を駆け抜けようとした。
ちょうど真ん中辺りに来た時、三井はそこにうずくまっている一人の男性を見つけた。
どうせ酔っぱらいが酔いつぶれて倒れているのだろうとは思ったが、この寒さでは見過ごすわけにもいかない。三井はおそるおそる声をかけた。 続きを読む
2006年11月16日
オオサカ シリアス ナイト
その19
「もしもし…」
受話器を取ったみどりは、無言の相手に何度か話しかけた後、はっと気が付いて叫んだ。
「松田さん…、松田さんでしょ!」
しかし、受話器の向こうからは何の応答もない。
「松田さん!」
もう一度、受話器に叫び欠けた時、「ツーツー」と音が鳴り、電話は切れた。
みどりは確信していた。今の無言電話は松田からの電話だと。しかし、彼がどうして…。
再び電話が鳴った。みどりは急いで受話器を上げた。 続きを読む
「もしもし…」
受話器を取ったみどりは、無言の相手に何度か話しかけた後、はっと気が付いて叫んだ。
「松田さん…、松田さんでしょ!」
しかし、受話器の向こうからは何の応答もない。
「松田さん!」
もう一度、受話器に叫び欠けた時、「ツーツー」と音が鳴り、電話は切れた。
みどりは確信していた。今の無言電話は松田からの電話だと。しかし、彼がどうして…。
再び電話が鳴った。みどりは急いで受話器を上げた。 続きを読む
2006年11月15日
オオサカ シリアス ナイト
その18
ママが話をはじめようとした矢先、遠野の携帯が勢いよく鳴った。
「ああ、私だ。どうした?」
遠野の顔色が瞬時に変わった。
「なにっ、わかった、すぐに行く」
「どうしたの警部?」
ママが不安げな表情で遠野を見上げる。
「ミサ…、いや紺野冴子の死体が発見された。場所は鳥飼大橋下の川原だ」
「えっ…!」
続きを読む
ママが話をはじめようとした矢先、遠野の携帯が勢いよく鳴った。
「ああ、私だ。どうした?」
遠野の顔色が瞬時に変わった。
「なにっ、わかった、すぐに行く」
「どうしたの警部?」
ママが不安げな表情で遠野を見上げる。
「ミサ…、いや紺野冴子の死体が発見された。場所は鳥飼大橋下の川原だ」
「えっ…!」
続きを読む
2006年11月14日
オオサカ シリアス ナイト
その17
「光一は実の弟じゃなくて、異母弟なの。私の実の母が家を出て、その後に迎えた女性との間に生まれたのが光一でね。でも、光一の母は、光一を産んで三ヶ月も経たないうちに事故で亡くなってしまって。私と光一とは年が十歳も離れていて、それから後は私が母代わりで光一の面倒をみてきたわ…」
そこでママは一息つくと、店のホステスに「千夏ちゃん、お客さんにおしぼり出してあげてね」と指示し、再び話し始めた。傍らで遠野も興味深く話を聞いている。 続きを読む
「光一は実の弟じゃなくて、異母弟なの。私の実の母が家を出て、その後に迎えた女性との間に生まれたのが光一でね。でも、光一の母は、光一を産んで三ヶ月も経たないうちに事故で亡くなってしまって。私と光一とは年が十歳も離れていて、それから後は私が母代わりで光一の面倒をみてきたわ…」
そこでママは一息つくと、店のホステスに「千夏ちゃん、お客さんにおしぼり出してあげてね」と指示し、再び話し始めた。傍らで遠野も興味深く話を聞いている。 続きを読む
2006年11月09日
オオサカ シリアス ナイト
その16
ママは、光一と聞いて、怪訝な表情を浮かべた。
「いらっしゃい。光一に何かご用?」
女性は、ママに向かって丁寧に挨拶をすると、
「このお写真を見ていただけませんでしょうか」
そう言って、一枚の写真をママに手渡した。
「あら…、この写真は私の弟よ。光一がどうかしたの?」
「……」 続きを読む
ママは、光一と聞いて、怪訝な表情を浮かべた。
「いらっしゃい。光一に何かご用?」
女性は、ママに向かって丁寧に挨拶をすると、
「このお写真を見ていただけませんでしょうか」
そう言って、一枚の写真をママに手渡した。
「あら…、この写真は私の弟よ。光一がどうかしたの?」
「……」 続きを読む
2006年11月07日
オオサカ シリアス ナイト
その15
「知ってるも何も、同じ堂山にあるスナックのママの弟で、光一て言うんだよ、この子」
英子は一瞬、耳を疑った。
「光一? カズじゃないの? 三宅一之…」
「違うわよ。光一だよ。嘘だと思うなら、このすぐ近くにある光洋ビルの三階に行ってごらんよ。『山茶花』という店よ」
早苗はそう言って、地図を書いてくれた。 続きを読む
「知ってるも何も、同じ堂山にあるスナックのママの弟で、光一て言うんだよ、この子」
英子は一瞬、耳を疑った。
「光一? カズじゃないの? 三宅一之…」
「違うわよ。光一だよ。嘘だと思うなら、このすぐ近くにある光洋ビルの三階に行ってごらんよ。『山茶花』という店よ」
早苗はそう言って、地図を書いてくれた。 続きを読む
2006年11月02日
オオサカ シリアス ナイト
その14
堂山の夜は不思議だ。東通りほどの賑わいはないが寂しくもない。喧噪としているわけではないが、かといって静かなわけでもない。大人の街のイメージはあるが、若い人たちの姿もよく見受けられる。それがはじめて堂山を訪れた英子の感想だった。その夜、英子は、友人を訪ねてこの街にやってきた。
キタに知人の少なかった英子は、旧い友人を捜し当て、この街にやってきたのだが、なかなか見つけられずにいた。 続きを読む
2006年11月01日
オオサカ シリアス ナイト
その13
うたた寝から目を覚ますと、遠野の姿はどこにもいなかった。
「斉藤はん、遠野はんは、もう出やはりましたぜ。起きたらタクシーを呼んでやってくれと言われて、お金預かってますよってに、クルマ、呼びまひょか」
居酒屋の主人、源さんが暖簾を下ろしながら斉藤に声をかけた。
遠野と一緒にこの店に立ち寄ったのが午後10時過ぎだった。しばらく飲んで急に眠気を催し、少し横になったのが午後10時45分、丸々2時間眠った計算になる。
「大将、どうもすみませんね。申し訳ないけどタクシー呼んでいただけますか」
しばらくしてタクシーがやって来た。 続きを読む
うたた寝から目を覚ますと、遠野の姿はどこにもいなかった。
「斉藤はん、遠野はんは、もう出やはりましたぜ。起きたらタクシーを呼んでやってくれと言われて、お金預かってますよってに、クルマ、呼びまひょか」
居酒屋の主人、源さんが暖簾を下ろしながら斉藤に声をかけた。
遠野と一緒にこの店に立ち寄ったのが午後10時過ぎだった。しばらく飲んで急に眠気を催し、少し横になったのが午後10時45分、丸々2時間眠った計算になる。
「大将、どうもすみませんね。申し訳ないけどタクシー呼んでいただけますか」
しばらくしてタクシーがやって来た。 続きを読む