オオサカジン

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2006年11月16日

オオサカ シリアス ナイト

その19

 「もしもし…」
 受話器を取ったみどりは、無言の相手に何度か話しかけた後、はっと気が付いて叫んだ。
 「松田さん…、松田さんでしょ!」
 しかし、受話器の向こうからは何の応答もない。
 「松田さん!」
 もう一度、受話器に叫び欠けた時、「ツーツー」と音が鳴り、電話は切れた。
 みどりは確信していた。今の無言電話は松田からの電話だと。しかし、彼がどうして…。
 再び電話が鳴った。みどりは急いで受話器を上げた。

「もしもし!」
 「私だ。斉藤も一緒に帰るから何かご飯を用意しておいてくれないか」
 父、遠野からの電話だった。
 「わかりました。用意しておきます」
 みどりは力なく受話器を置くと、台所に立った。
 あれ以来、松田からの連絡は途絶えたままだ。こちらから連絡をしても一向につながらない。どうしてだろう。一体、松田に何があったというのだろう。みどりは思考力のなくなった頭を抱えて、台所に立ちつくした。思い返しても思い返しても、何の心当たりもない。松田とは喧嘩すらしたことがない。やさしくて思いやりのある彼、そんな彼に何があったのか。みどりの瞳からまた涙があふれ出てきた。松田のことを思うたびに涙が出てくるのだ。
 「ただいま」
 父、遠野の声にみどりは急いで玄関に向かった。父のそばににこやかな顔をした斉藤が立っていた。
 「みどりさん、今晩は。夜分お邪魔してすみません。警部が寄ってけ、寄ってけとうるさいものだから」
 「いえ、いいんですよ斉藤さん。どうぞ、お上がりになってください」
 みどりの声に促されるようにして斉藤は靴を脱いだ。疲れのためか、斉藤の顔色が悪い。ずいぶん無理をしているのだろう。みどりはそう思い、斉藤の鞄を預かり、手に持った。恐縮しながらも斉藤は、勝手知ったる様子で居間に入っていった。
 「斉藤、まあ飲め、疲れただろう」
 遠野はそう言って斉藤のコップにビールを注いだ。それを斉藤は一気に空け、唇を手でぬぐった。
 「警部。この事件は奥が深いような気がします。桃谷の誘拐も英子さんの恋人の失踪も、ミサちゃんの失踪、殺人もすべて一つでつながっているような気がするんです」
 遠野は斉藤の話をじっと聞いている。
 「しかし、わからないのはミサちゃんがなぜ殺されたかということです。失踪して、二ヶ月の時を経て死体が発見されたというのも解せません。ミサちゃんの周辺を洗いましたが、彼女は本当に真面目ないい女の子です。会社でも店でも、悪いうわさ一つ聞きません。付き合っている男もいませんでした。彼女の部屋からもそういった様子はうかがえず、本当に不思議で仕方ありません」
 「そうか。あの子はいい子だったものな。しかし、何かがあるはずだ。その何かを探し出さねばこのヤマはお宮入りになってしまう。それだけは何としても防ぎたい。斉藤、頼むぞ。おまえだけが頼りだ」
 ビールを一息に呷り、遠野は斉藤の肩を軽く叩いた。
 それにしてもおかしなことが多すぎる。遠野の脳裏をこの二、三日の捜査がよぎった。何の収穫もなかった捜査だつたが、遠野の執念は少しの揺るぎもなかった。
 「お父さん。斉藤さん、お泊めしたらどうですか。ずいぶんお疲れのようですから」
 「いえっ、そんな…。帰りますからどうぞおかまいなく」
 照れたような仕草で斉藤がみどりの言葉を遮る。
 「そうだ、斉藤。今日は泊まれ。どうせ明日は早い。一緒に出勤しよう」
 遠野の言葉に斉藤は黙った。
 「そうよ、斉藤さん。泊まっていってください」
 「わかりました。ありがとうございます。では、お言葉に甘えて泊まらせていただきます。みどりさん、よろしくお願いします」
 みどりに向かって斉藤が頭を下げた。その様子がおかしかったのか、みどりが笑うと、つられて斉藤も笑った。遠野はそんな二人を満足そうに眺め、さらにもう一杯、ビールを呷った。

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Posted by ゆーじゅん at 21:01│Comments(0)第一章
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