オオサカジン

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2006年09月23日

オオサカ シリアス ナイト

第一章その3
 午後11時を過ぎても何の連絡もない。思い悩んだ英子は、兄に電話をした。
 「どうした。何かあったんか?」
 英子の兄、矢崎治郎の重い声が耳にずんと響く。
 英子にとって兄は、子供の頃からずっと頼りになる存在だった。それは大人になった今も変わってはいない。

 「今、付き合っている彼が…」
 英子は、一部始終を説明した。そして、何となく胸騒ぎがして仕方がないということも付け加えた。
 「そうか…。でも大丈夫なんとちがうか。若い子やし、気まぐれでどっかへ行ったんやろう。心配することはないと思うけどなあ」
 「そうだといいんだけど…」
 「まあなあ…、焼き肉を食べている最中に携帯を持って外に出て、そのまま帰ってけえへんというのはちょっと異常やもんなぁ」
 「そうなんよ。私に嫌気さしたのだったら最初から来なかったらええと思うし、わざわざ出て来て、焼き肉を食べている最中に、一言の断りもなくいなくなるなんて…。電話で急ぎの用が出来たんなら、私に、用が出来たからと言って出て行くと思うんだけど…、それが何も言わずに消えたでしょ。何だか気になって」
 「それで、おれに何を頼みたいんだ」
 「兄さん、新聞社でしょ。最近、他にこうした失踪事件がないかどうか、一度調べてくれない?」
 「まあ、それぐらいならおやすいご用だけど、でも、まず、そんな事件、ないやろ。聞いたことがないもんな」
 「お願い。どうしても気になるの。調べて電話をくれる?」
 「わかった」
 兄の野太い声を耳に残して英子は電話を切った。
 
 英子は、アパレル会社のチーフデザイナーとして働いていた。会社は茶屋町にあり、地下鉄梅田で下車したあと、会社まで歩いて通う。10分ほどの距離だが、行きも帰りも人が多く、距離の割りに疲れを感じる。
 年商20億程度の中堅のアパレル会社だったが、デザインの斬新さが売りで、業績は悪くなかった。英子はそのデザイン部の中枢を担っていた。
 午前9時、会社に入り、席に座ろうとしたところで部長に呼ばれた。
 「矢崎くん。きみ、今度の金曜日、空いているかね」
 部長は五十代前半、切れ者との噂で服のセンスもいい。ただ、女癖が悪いようで、社の女性のほとんどは部長と一緒に行動するのを嫌っている。英子もその一人だった。
 「金曜日? 何かあるのですか?」
 「ああ、接待だよ。Oデパートの専務なんだが、うちの新商品を大々的に取り扱ってもらうために一度、飲ませておこうと思ってね。きみに同行してもらえば助かるんだが」
 一見、柔らかな物言いのようにもみえるが、有無を言わせぬ雰囲気がそこにあった。
 「わかりました。お供させていただきます」
 「じゃあ、詳しいことは改めて話をする」
 英子は、深々とお辞儀をして元の席に戻った。
 相変わらず彼からの連絡はない。英子は一旦、彼のことを忘れて仕事モードに入ろうと思ったが、そうもいかないもどかしさを感じていた。どうしても昨日の彼の様子が脳裏を巡る。
 そんな午後のことだった。英子の携帯に兄から電話があった。



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Posted by ゆーじゅん at 17:20│Comments(0)第一章
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