2007年01月09日
オオサカ シリアス ナイト
その8
遠野警部は、あれ以来、堂山の店には行っていない。行けば紺野冴子を思いだしてしまう。片思いではあったが、ほんのりとした気分にさせてくれた女の子だった。しかし、事件は意外な様相をみせ、感傷に浸っておれるような状況ではなかった。その夜、久しぶりに『山茶花』に行く決心をした。
午後八時を過ぎた堂山界隈は相変わらず賑やかだった。山茶花のドアを開き、中に入ると、「あらっ、お珍しい」ママが声を上げて迎えてくれた。
遠野警部は、あれ以来、堂山の店には行っていない。行けば紺野冴子を思いだしてしまう。片思いではあったが、ほんのりとした気分にさせてくれた女の子だった。しかし、事件は意外な様相をみせ、感傷に浸っておれるような状況ではなかった。その夜、久しぶりに『山茶花』に行く決心をした。
午後八時を過ぎた堂山界隈は相変わらず賑やかだった。山茶花のドアを開き、中に入ると、「あらっ、お珍しい」ママが声を上げて迎えてくれた。
ホステスもずいぶん人が変わっていた。水割りのグラスを手に聞きたくもない他人のカラオケを聴きながら遠野は、冴子のことを一人思い出していた。
「今日は斉藤さんはどうしたの?」
ようやくママが席にやってきて、入れ替わりに若いホステスが遠野の側を離れた。
「斉藤は調べものをしてもらっている。いつも彼の見張り付きでは息苦しいからね」
「ところでミサちゃん(冴子)の事件はあれからどうなりました。何かわかりました?」
遠野はグラスを一気にあおると、静かに言った。
「いや、何も進展していない。物的証拠が少ないことも一因だが、彼女の周辺がつかめない」
「そうなの。でも、警部の娘さんの彼も淀川大橋で殺されたんでしょ。あの件もまだ進展してないんですよね」
「そうなんだ。二つの事件が関連しているかどうかはともかくとして、あれも不思議な事件でね。やはり物証が少ない。目撃者も少ないしね」
「うちの弟の件もそうだけど、行方不明のままなのよね。一応、警察には失踪届を出したし、それなりに調べているんだけれど、未だに行方がつかめない…」
二杯目の水割りをお代わりした遠野が、思い出したようにママに訊く。
「そういえば、あの娘さん。あれから訪ねて来られたかね」
「ええ。矢崎英子さんでしょ。二度ほど訪ねて来られたみたいだけど、たまたま私のいない時ばかりでね。まだ逢えていないのよ」
「あの時、弟さんのことで話しかけたことがあっただろ。あれってどんなことだった?」
「弟のことで…? ああ、弟の病気のことね」
「そうそう、病気だった。弟さんはどんな病気だった?」
「弟は思春期に入った頃から変になって…。医者に行って調べてもらったら多重人格症だと言われて」
「多重人格症?」
「そう…、なぜなんだろうねえ。特別な苦労をしたわけでもないのに。でもまあ、だからといってどうということはなかったの。何の問題も起こしていなかったから」
「多重人格症か…」
「それがどうかしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ。たいしたことはない」
その時、遠野の携帯電話が鳴った。
「…わかった。すぐに行く」
遠野の様子をみて、ママが訊ねた。
「どうしたの警部? また、事件でもあったの?」
「ああ、また殺人だ」
短く言い捨てると店を後にした。
「今日は斉藤さんはどうしたの?」
ようやくママが席にやってきて、入れ替わりに若いホステスが遠野の側を離れた。
「斉藤は調べものをしてもらっている。いつも彼の見張り付きでは息苦しいからね」
「ところでミサちゃん(冴子)の事件はあれからどうなりました。何かわかりました?」
遠野はグラスを一気にあおると、静かに言った。
「いや、何も進展していない。物的証拠が少ないことも一因だが、彼女の周辺がつかめない」
「そうなの。でも、警部の娘さんの彼も淀川大橋で殺されたんでしょ。あの件もまだ進展してないんですよね」
「そうなんだ。二つの事件が関連しているかどうかはともかくとして、あれも不思議な事件でね。やはり物証が少ない。目撃者も少ないしね」
「うちの弟の件もそうだけど、行方不明のままなのよね。一応、警察には失踪届を出したし、それなりに調べているんだけれど、未だに行方がつかめない…」
二杯目の水割りをお代わりした遠野が、思い出したようにママに訊く。
「そういえば、あの娘さん。あれから訪ねて来られたかね」
「ええ。矢崎英子さんでしょ。二度ほど訪ねて来られたみたいだけど、たまたま私のいない時ばかりでね。まだ逢えていないのよ」
「あの時、弟さんのことで話しかけたことがあっただろ。あれってどんなことだった?」
「弟のことで…? ああ、弟の病気のことね」
「そうそう、病気だった。弟さんはどんな病気だった?」
「弟は思春期に入った頃から変になって…。医者に行って調べてもらったら多重人格症だと言われて」
「多重人格症?」
「そう…、なぜなんだろうねえ。特別な苦労をしたわけでもないのに。でもまあ、だからといってどうということはなかったの。何の問題も起こしていなかったから」
「多重人格症か…」
「それがどうかしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけだよ。たいしたことはない」
その時、遠野の携帯電話が鳴った。
「…わかった。すぐに行く」
遠野の様子をみて、ママが訊ねた。
「どうしたの警部? また、事件でもあったの?」
「ああ、また殺人だ」
短く言い捨てると店を後にした。
Posted by ゆーじゅん at 11:12│Comments(0)
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