オオサカジン

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2006年11月02日

オオサカ シリアス ナイト


 その14
 
 堂山の夜は不思議だ。東通りほどの賑わいはないが寂しくもない。喧噪としているわけではないが、かといって静かなわけでもない。大人の街のイメージはあるが、若い人たちの姿もよく見受けられる。それがはじめて堂山を訪れた英子の感想だった。その夜、英子は、友人を訪ねてこの街にやってきた。
 キタに知人の少なかった英子は、旧い友人を捜し当て、この街にやってきたのだが、なかなか見つけられずにいた。

 旧バナナホールの近くだと聞き、雑居ビルの三階、『どっぽ』と言う名前だということも聞いていた。それだけわかれば十分だと思っていたのだ。ところが狙いを定めた雑居ビルには、その名前がない。確かに「どっぽ」と聞いたはずだが三階のフロアにはそんな名前は見あたらなかった。携帯を鳴らすが留守電になっていて通じない。
 「電話番号ぐらい聞いておけばよかった」
 英子は悔やんだ。すぐに見つけられると思っていたのだ。他にそれらしきビルがないか、英子は探し回った。すると、見た感じはくっついているようだが、よく見ると別の建物になっている細いビルがあった。てっきり大きなビルと一緒だと思っていた英子は、思い違いに気付き、あらためてそのビルの三階を見た。会社名が並んだ中に「どっぽ」の名前があった。
 7階建ての細い建物は、大きな雑居ビルに寄生するように立っていた。エレベーターに乗ると、キュィーンと金属音がし、狭い小さなエレベーターの中で英子は一瞬、身をすくめた。
 エレベーターを下りるとすぐに「どっぽ」の入り口があった。スナックという表示がなければ店だということに気がつかないだろう。重々しい扉を開けると、すぐに「英子〜!」と黄色い声が聞こえた。
 店内は薄暗く、思いの外、広かった。客も五、六人は入っているようだ。
 「英子、久しぶり」
 カウンターの中から派手な衣装の女性が飛び出してきた。それが旧友の早苗だった。
 早苗は英子をカウンターの椅子に座らせると、
 「それにしても久しぶりね。どういった風の吹き回しなの」と聞いた。
 「ちょっと、調べものをしていて、それであなたのことを思い出したのよ。でも、まさか、まだここにいるとは思わなかったわ」
 早苗は、「そうなのよね。わたしもそう思っている」と悪びれずに言った。
 「結婚すると言ってやめたでしょ。結婚はしたの?」
 「結婚してたらここにはいないわよ。悪い男に引っかかって、身ぐるみ取られておじゃんよ」
 「えっ、それじゃ、結婚詐欺に引っかかったの?」
 「そうよ、結婚式の前の日にどろん。赤っ恥かいちゃったわ。もう、男なんて信じない、あの時はそう思ったわ」
 「そうなの…。大変だったわね」
 「まったく。おかげで家には帰れない、会社にも戻れない、で、ここで働かせてもらっているというわけ」  
 「早苗が会社を辞めてからどのぐらい経つのかしら…」
 「五年。私も年を取ったわ。30歳よ」
 「年のことは言わないで。私も同じ年なんだから」
 二人して声を上げて笑った。
 「で、今日はどうしたの? 何か用があって来たんでしょ」
 「ええ、実は人を捜しているの。男の子なんだけれど、多分、早苗は知らないと思うんだけど…」
 と言いながらカズの写真を出した。
 「あらっ?」
 早苗が素っ頓狂な声を上げた。
 「知ってるの?」
 早苗の反応を見て、英子が驚いたように聞きただした。
 時計の針は十時を指している。その時刻に合わせたように、三、四人のサラリーマン客がなだれ込むようにして入って来た。
 

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Posted by ゆーじゅん at 19:54│Comments(0)第一章
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