オオサカジン

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2007年01月18日

オオサカ シリアス ナイト

その12

 英子はまだ信じられない気持ちでいた。あの夕月光が自分の目の前にいるなんて。
 遠野の話に聞き入っている夕月の姿は異様であった。マジシャンのような帽子で髪の毛を隠し、大きなサングラスで顔を隠し、体型を色鮮やかなピンクの大きなコートで隠している。この姿を見て、誰が夕月光と思うだろうか。単なる目立ちたがり屋のおじさんである。だから誰も気付かない。
 遠野の指摘がなければ、英子だってきっと分からなかっただろう。言われてみればなるほどである。間違いなく夕月光だ。

 日本の女性の八割、いや九割は夕月光のファンであると言われている。それほど夕月は人気の高い名優だ。生年月日はあきらかにされていないが、今までの経歴から判断すると六十に近いか超えているはずである。だが、映画の中で演じる夕月を見て、誰がそんな歳に思うだろう。どうみても青年である。
 これまで十数回に渡って外国の映画祭で主演男優賞を獲得している。アカデミー賞で三回、カンヌで四回、そのほかの映画祭で六回、世界的な名優といわれる所以である。結婚をしているかどうか、恋人がいるかどうかさえもわかっていない。しかし、夕月がデートをする姿は世界各国で目撃されている。相手は様々であった。日本人、中国人、韓国人はもとより、フランス、イギリス、アメリカ、南アフリカ、パキスタン…、とめどなく噂が流れた。相手は映画女優に限っていなかった。時には王女、ある時は農民の娘、花売り娘、ストリッパー…、これまた様々であった。
 「桃谷での誘拐、英子さんの彼の蒸発、遠野警部が通っていた店のホステスの行方不明と死、警部の娘、みどりさんの彼の死…、それが一つひとつ別の事件か同じ事件なのか、それさえもわからない。しかもいずれも手がかりがないわけですね」
 「そうだ。てんでバラバラの事件だが、私にはそうは思えないんだ。勘なんだが、すべて一つの線でつながっている、そんな気がしているんだ」
 世界的名優の夕月がなぜ、遠野警部の手伝いをしなければならないのだろうか。そんな暇があるのだろうか、英子は不思議に思いながらなおも夕月光を観察していた。
 「…わかりました。ドイツで伯爵令嬢とデートの約束があるからそれを終えてから、推理にかかりましょう」
 夕月光がそう言うと、遠野警部がテーブルをドンと叩き、
 「だめだ。すぐにかかってくれ。これは命令だ」
 すると夕月は「わかった。伯爵令嬢には電話をしておく、少し遅れると」と応え、
 「少しじゃない。この事件が片付くまで駄目だ」と言われると、
 「はい、はい、わかりました」と素直に応じる。
 「でも映画祭までは間に合わせたいなあ。新作の撮入もロシアではじまるし…」
 「だめだ。すべて事件が片付いてからにしてくれ」
 遠野警部が信じられないようなわがままを言うのに対し、夕月はそれに素直に応じている。
 英子は息を飲むようにして二人を見守っていた。
 そんな英子に夕月光が声をかける。
 「英子さん、大丈夫ですよ。あなたの彼の行方、私が探し出してあげますから」
 「は、はい…」
 英子は頭がぼーっとして言葉が出ない。思わず気を失いそうになった。三原などは少し前から気絶している。

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Posted by ゆーじゅん at 17:27│Comments(0)第二章
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