2007年06月14日
オオサカ シリアス ナイト
その1
江坂から中央区天満橋へ、英子は居を移した。新しい住まいは1LDKのマンションで以前の住まいとそう変わっているわけではなかった。ただ、江坂よりも市内の中心部にいる分、動きが取りやすかった。
結局、英子は休職したまま元のアパレル会社を退職してしまった。会社の部長からは何度か退職を思いとどまるよう連絡が入り、執拗に食事を誘われたりもしたが、最後には意志を貫き、会社と部長に別れを告げた。
カズの行方は杳として知れなかった。その上、兄の治郎までもが行方不明になった。この事件に関わる者はすべて消えて行く。しかし、英子はこの事件から手を引くつもりはなかった。今ではカズが無事でいるかどうかの保証さえない。それでも英子はこの事件の真実に触れるまでは追うことをやめない、密かにそう決心していた。 続きを読む
江坂から中央区天満橋へ、英子は居を移した。新しい住まいは1LDKのマンションで以前の住まいとそう変わっているわけではなかった。ただ、江坂よりも市内の中心部にいる分、動きが取りやすかった。
結局、英子は休職したまま元のアパレル会社を退職してしまった。会社の部長からは何度か退職を思いとどまるよう連絡が入り、執拗に食事を誘われたりもしたが、最後には意志を貫き、会社と部長に別れを告げた。
カズの行方は杳として知れなかった。その上、兄の治郎までもが行方不明になった。この事件に関わる者はすべて消えて行く。しかし、英子はこの事件から手を引くつもりはなかった。今ではカズが無事でいるかどうかの保証さえない。それでも英子はこの事件の真実に触れるまでは追うことをやめない、密かにそう決心していた。 続きを読む
2007年06月13日
オオサカ シリアス ナイト
その20
中央に立つその男は、英子に見せてもらった写真とは雰囲気が一変していた。茶髪が黒髪になり、赤銅色に焼けた肌は色白になっており、写真の面影はまるでなかった。
「カズさんだったね。いや、光一くんか…。英子がどれほどきみのことを心配し、探し回っていたか、こういう状態でなければゆっくりと説明してあげたいぐらいだよ」
続きを読む
中央に立つその男は、英子に見せてもらった写真とは雰囲気が一変していた。茶髪が黒髪になり、赤銅色に焼けた肌は色白になっており、写真の面影はまるでなかった。
「カズさんだったね。いや、光一くんか…。英子がどれほどきみのことを心配し、探し回っていたか、こういう状態でなければゆっくりと説明してあげたいぐらいだよ」
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2007年06月08日
オオサカ シリアス ナイト
その19
「これをどうやって手に入れたのですか?」
「蛇の道は蛇だよ。矢崎くん、きみがどういう理由でこれを記事にしようとしているかは知らないが、世の中には、妙な義憤に駆られて命を粗末にする者も多い。せいぜい気を付けるんだね。今回は忠告だが、この次はそうはならないかもしれない」
落ち着き払った男の声が返って不気味さを増長していた。 続きを読む
「これをどうやって手に入れたのですか?」
「蛇の道は蛇だよ。矢崎くん、きみがどういう理由でこれを記事にしようとしているかは知らないが、世の中には、妙な義憤に駆られて命を粗末にする者も多い。せいぜい気を付けるんだね。今回は忠告だが、この次はそうはならないかもしれない」
落ち着き払った男の声が返って不気味さを増長していた。 続きを読む
2007年06月08日
オオサカ シリアス ナイト
その18
「どうぞ、遠慮なさらずに中へ」
ハンドルを握っていた中年の男が治郎を部屋の中へ誘った。治郎のそばには車の中で隣席に座っていた男が治郎をガードするようにして立っている。その男に追い立てられるようにして部屋の中へ入った。
豪壮な造りの建物であった。広々とした庭があり、芝生と大樹が邸宅の豪壮さをさらに印象づけていた。番犬らしい犬の鳴き声が頻繁に耳に響いた。 続きを読む
「どうぞ、遠慮なさらずに中へ」
ハンドルを握っていた中年の男が治郎を部屋の中へ誘った。治郎のそばには車の中で隣席に座っていた男が治郎をガードするようにして立っている。その男に追い立てられるようにして部屋の中へ入った。
豪壮な造りの建物であった。広々とした庭があり、芝生と大樹が邸宅の豪壮さをさらに印象づけていた。番犬らしい犬の鳴き声が頻繁に耳に響いた。 続きを読む
2007年06月07日
オオサカ シリアス ナイト
その17
淀川の風に吹かれて矢崎治郎は人を待っていた。
「連続誘拐殺人事件について重要な情報をお伝えしたい。ついては午後8時、淀川大橋のたもとで待っていてください」治郎の勤める新聞社に、治郎宛にかかってきた電話である。
最初は悪戯かもしれない。そう思って無視しようと思ったが、気になった。電話の相手は決して若くはなかった。中年、いや熟年に近い世代かもしれない。そう思うと悪戯でかけてきたとは思えなかった。 続きを読む
淀川の風に吹かれて矢崎治郎は人を待っていた。
「連続誘拐殺人事件について重要な情報をお伝えしたい。ついては午後8時、淀川大橋のたもとで待っていてください」治郎の勤める新聞社に、治郎宛にかかってきた電話である。
最初は悪戯かもしれない。そう思って無視しようと思ったが、気になった。電話の相手は決して若くはなかった。中年、いや熟年に近い世代かもしれない。そう思うと悪戯でかけてきたとは思えなかった。 続きを読む
2007年05月22日
オオサカ シリアス ナイト
その16
遠野の回想が続く。
カズの行方を追っていた英子は、兄の治郎にカズが過激な組織『龍』に所属していたことを知る。しかもカズはその組織を抜けようとしていた。『龍』と神の使人の団体が結託しているとの情報も浮上する。
再び殺人事件が起きたのはそんな時だった。鶴橋駅からほど近い場所で桃谷で誘拐された男の死体が発見される。
複雑な事件の連続に音を上げた遠野は、渋々、夕月光に協力を要請する。
それがこの間のことだった。以来、どういうわけか夕月光からの連絡が途絶えている。 続きを読む
遠野の回想が続く。
カズの行方を追っていた英子は、兄の治郎にカズが過激な組織『龍』に所属していたことを知る。しかもカズはその組織を抜けようとしていた。『龍』と神の使人の団体が結託しているとの情報も浮上する。
再び殺人事件が起きたのはそんな時だった。鶴橋駅からほど近い場所で桃谷で誘拐された男の死体が発見される。
複雑な事件の連続に音を上げた遠野は、渋々、夕月光に協力を要請する。
それがこの間のことだった。以来、どういうわけか夕月光からの連絡が途絶えている。 続きを読む
2007年05月21日
オオサカ シリアス ナイト
その15
英子と落ち合う場所は大阪梅田の新阪急ホテルロビーに決めていた。電車に乗って梅田へ向かう道すがら遠野は今回の事件を反芻していた。
発端は、英子の彼、三宅一之、通称カズの失踪だった。それと前後して桃谷駅近くのマンションで誘拐事件が起きた。誘拐現場に残された爬虫類を模したような動物の形をしたストラップ、ど真ん中に家紋のようなマークがあった。 続きを読む
英子と落ち合う場所は大阪梅田の新阪急ホテルロビーに決めていた。電車に乗って梅田へ向かう道すがら遠野は今回の事件を反芻していた。
発端は、英子の彼、三宅一之、通称カズの失踪だった。それと前後して桃谷駅近くのマンションで誘拐事件が起きた。誘拐現場に残された爬虫類を模したような動物の形をしたストラップ、ど真ん中に家紋のようなマークがあった。 続きを読む
2007年05月08日
オオサカ シリアス ナイト
四月の晴れた土曜日のことである。
遠野警部は矢崎英子から電話を受けた。午前九時、遅い朝食をすませた後のことだった。
「おはようございます。矢崎英子です。警部、すみません、こんなに朝早くに電話をして…」
英子とは夕月光と共に会って以来のことだ。電話の様子がおかしいことに気付いた遠野は、英子に言った。
「何か、あったのかね?」
「警部、申し訳ありませんが今日、お時間をつくっていただけませんでしょうか?」
「わかった」
遠野は即応して時間と場所を決めた。 続きを読む
遠野警部は矢崎英子から電話を受けた。午前九時、遅い朝食をすませた後のことだった。
「おはようございます。矢崎英子です。警部、すみません、こんなに朝早くに電話をして…」
英子とは夕月光と共に会って以来のことだ。電話の様子がおかしいことに気付いた遠野は、英子に言った。
「何か、あったのかね?」
「警部、申し訳ありませんが今日、お時間をつくっていただけませんでしょうか?」
「わかった」
遠野は即応して時間と場所を決めた。 続きを読む
2007年02月18日
オオサカ シリアス ナイト
その13
英子と三原が店を出た後、遠野警部は、夕月光に言った。
「今回の事件は、非常に複雑だ。一筋縄ではいかない事件のような気がする。今の警察の組織では、太刀打ちできないほど深い、大きな事件だと思っている。そこで、きみにお願いした次第だ。この気持ち、わかってくれ」
「脅かしたじゃないですか。言うこと聞かないとバラスぞって」
「いや、あれはそうでも言わないときみが素直に来てくれない、そう思ったからだよ」
「まあ、いいですけどね。面白そうな事件だから…」
「そうだ。きみでなくては解決しない。だから頼む」
夕月光は、長い足を椅子の上で組み替え、コーヒーをお代わりするとしばし瞑想した。 続きを読む
英子と三原が店を出た後、遠野警部は、夕月光に言った。
「今回の事件は、非常に複雑だ。一筋縄ではいかない事件のような気がする。今の警察の組織では、太刀打ちできないほど深い、大きな事件だと思っている。そこで、きみにお願いした次第だ。この気持ち、わかってくれ」
「脅かしたじゃないですか。言うこと聞かないとバラスぞって」
「いや、あれはそうでも言わないときみが素直に来てくれない、そう思ったからだよ」
「まあ、いいですけどね。面白そうな事件だから…」
「そうだ。きみでなくては解決しない。だから頼む」
夕月光は、長い足を椅子の上で組み替え、コーヒーをお代わりするとしばし瞑想した。 続きを読む
2007年01月18日
オオサカ シリアス ナイト
その12
英子はまだ信じられない気持ちでいた。あの夕月光が自分の目の前にいるなんて。
遠野の話に聞き入っている夕月の姿は異様であった。マジシャンのような帽子で髪の毛を隠し、大きなサングラスで顔を隠し、体型を色鮮やかなピンクの大きなコートで隠している。この姿を見て、誰が夕月光と思うだろうか。単なる目立ちたがり屋のおじさんである。だから誰も気付かない。
遠野の指摘がなければ、英子だってきっと分からなかっただろう。言われてみればなるほどである。間違いなく夕月光だ。 続きを読む
英子はまだ信じられない気持ちでいた。あの夕月光が自分の目の前にいるなんて。
遠野の話に聞き入っている夕月の姿は異様であった。マジシャンのような帽子で髪の毛を隠し、大きなサングラスで顔を隠し、体型を色鮮やかなピンクの大きなコートで隠している。この姿を見て、誰が夕月光と思うだろうか。単なる目立ちたがり屋のおじさんである。だから誰も気付かない。
遠野の指摘がなければ、英子だってきっと分からなかっただろう。言われてみればなるほどである。間違いなく夕月光だ。 続きを読む
2007年01月11日
オオサカ シリアス ナイト
その11
英子と英子の友人、三原は絶句した。
遠野の背後に立つ奇妙な風体の男は、まさしく伝説の俳優、夕月光であったからだ。
「夕月光…さんですか?」英子が恐る恐る訊ねる。
「ご紹介します。彼が夕月光です」
苦虫をかみつぶしたような表情で遠野が紹介すると、夕月光は被っていたマジシャンが被るような帽子を脱ぎ、笑顔を見せて軽く一礼した。
「夕月です。よろしく」
透き通るような声であった。 続きを読む
英子と英子の友人、三原は絶句した。
遠野の背後に立つ奇妙な風体の男は、まさしく伝説の俳優、夕月光であったからだ。
「夕月光…さんですか?」英子が恐る恐る訊ねる。
「ご紹介します。彼が夕月光です」
苦虫をかみつぶしたような表情で遠野が紹介すると、夕月光は被っていたマジシャンが被るような帽子を脱ぎ、笑顔を見せて軽く一礼した。
「夕月です。よろしく」
透き通るような声であった。 続きを読む
2007年01月09日
オオサカ シリアス ナイト
その10
その日、英子は、学生時代からの友人に会うために梅田駅に出かけた。カズが所属していた団体の情報を訊くためのものだったが、約束の時間より三十分早く梅田に着いてしまった。仕方なく阪急周辺をウロウロしていたところ、ソニープラザの近くで思いがけなく遠野警部を見かけた。
「警部、その節はどうも。お久しぶりです」
若い女性に声をかけられて面食らってしまった様子の遠野は、それが「山茶花」で出会った女性だと知ると、「おお、これはこれは」とあわてて深々とお辞儀をした。
続きを読む
その日、英子は、学生時代からの友人に会うために梅田駅に出かけた。カズが所属していた団体の情報を訊くためのものだったが、約束の時間より三十分早く梅田に着いてしまった。仕方なく阪急周辺をウロウロしていたところ、ソニープラザの近くで思いがけなく遠野警部を見かけた。
「警部、その節はどうも。お久しぶりです」
若い女性に声をかけられて面食らってしまった様子の遠野は、それが「山茶花」で出会った女性だと知ると、「おお、これはこれは」とあわてて深々とお辞儀をした。
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2007年01月09日
オオサカ シリアス ナイト
その9
「警部、お待ちしていました」
斉藤が現場で待っていた。
「まいったなあ。警察の威信が問われるぞ。これでは…」
鶴橋駅からほど近い暗い路地の一角だった。駅に近いというのに、辺りには人家しかない。
「車も人通りも少ないところだ。こんなところへ死体を捨てる奴の気がしれんなあ」
遠野がつぶやくように言った。その傍らに三十代前半とおぼしき男性の死体が横たわっている。
「所持品から身元が割れました」
斉藤の報告だった。
続きを読む
「警部、お待ちしていました」
斉藤が現場で待っていた。
「まいったなあ。警察の威信が問われるぞ。これでは…」
鶴橋駅からほど近い暗い路地の一角だった。駅に近いというのに、辺りには人家しかない。
「車も人通りも少ないところだ。こんなところへ死体を捨てる奴の気がしれんなあ」
遠野がつぶやくように言った。その傍らに三十代前半とおぼしき男性の死体が横たわっている。
「所持品から身元が割れました」
斉藤の報告だった。
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2007年01月09日
オオサカ シリアス ナイト
その8
遠野警部は、あれ以来、堂山の店には行っていない。行けば紺野冴子を思いだしてしまう。片思いではあったが、ほんのりとした気分にさせてくれた女の子だった。しかし、事件は意外な様相をみせ、感傷に浸っておれるような状況ではなかった。その夜、久しぶりに『山茶花』に行く決心をした。
午後八時を過ぎた堂山界隈は相変わらず賑やかだった。山茶花のドアを開き、中に入ると、「あらっ、お珍しい」ママが声を上げて迎えてくれた。 続きを読む
遠野警部は、あれ以来、堂山の店には行っていない。行けば紺野冴子を思いだしてしまう。片思いではあったが、ほんのりとした気分にさせてくれた女の子だった。しかし、事件は意外な様相をみせ、感傷に浸っておれるような状況ではなかった。その夜、久しぶりに『山茶花』に行く決心をした。
午後八時を過ぎた堂山界隈は相変わらず賑やかだった。山茶花のドアを開き、中に入ると、「あらっ、お珍しい」ママが声を上げて迎えてくれた。 続きを読む
2006年12月12日
オオサカ シリアス ナイト
その7
「カズはある団体に所属していたようなの」
「団体? 何の団体だ?」
治郎はタバコに火を点け、一息吸い込むと大きく煙を吐き出した。
「カズの周りの人たちに話を聞いていくうちにわかったことだけど、その団体って、ある政治団体の青年組織でかなりの右派ということなの」
「若い奴にはありがちなことさ。大したことじゃない。それがどうかしたのか」
英子はコーヒーを口にすると、しばらく黙った。 続きを読む
「カズはある団体に所属していたようなの」
「団体? 何の団体だ?」
治郎はタバコに火を点け、一息吸い込むと大きく煙を吐き出した。
「カズの周りの人たちに話を聞いていくうちにわかったことだけど、その団体って、ある政治団体の青年組織でかなりの右派ということなの」
「若い奴にはありがちなことさ。大したことじゃない。それがどうかしたのか」
英子はコーヒーを口にすると、しばらく黙った。 続きを読む
2006年12月08日
オオサカ シリアス ナイト
その6
「学生時代の友だちなんです。今日の集会に招待したんですが、少し興奮してて…」
「…安田美菜と申します。よろしくお願いします」
美菜は、深々と頭を下げて矢崎治郎に挨拶をした。美菜は一刻も早くこの場所から脱出したかった。しかし、香山が美菜の腕を掴んで離さない。
「そうか…、香山はここに所属しているのか。じゃあ、ちょうどよかった。取材に協力してくれないか」
治郎が話している間に、美菜が突然、
「失礼します」と言って、香山の腕を振り払い会場を去ろうとした。 続きを読む
「学生時代の友だちなんです。今日の集会に招待したんですが、少し興奮してて…」
「…安田美菜と申します。よろしくお願いします」
美菜は、深々と頭を下げて矢崎治郎に挨拶をした。美菜は一刻も早くこの場所から脱出したかった。しかし、香山が美菜の腕を掴んで離さない。
「そうか…、香山はここに所属しているのか。じゃあ、ちょうどよかった。取材に協力してくれないか」
治郎が話している間に、美菜が突然、
「失礼します」と言って、香山の腕を振り払い会場を去ろうとした。 続きを読む
2006年12月07日
オオサカ シリアス ナイト
その5
遠野警部と斉藤は、会場が異様に興奮する中、席を離れ、会場を後にした。
「警部、どう思います。怪しいとは思いませんか」
「……」
「使人ですか。何だか異様な宗教でしたよね。でも、今回の事件に関係がありますかねぇ」
一人言のように斉藤が喋る。遠野は瞑想したまま何も答えない。
やがてカッと目を見開いた遠野が斉藤に向かって、
「斉藤、おまえ、今日の集会で気付かなかったか」
と言った。 続きを読む
2006年12月05日
オオサカ シリアス ナイト
その4
会場から一斉に歓声が湧いた。
「おおーっ」
歓声は止まず、ステージに立ったそれは使人と並び、しばらく会場を眺め回した。
程なくして歓声が途絶えたところをねらってそれは口を開いた。
「みなさん、こんにちは」
よく通る声だった。さすがは現在日本を象徴するスターだと遠野は思った。 続きを読む
会場から一斉に歓声が湧いた。
「おおーっ」
歓声は止まず、ステージに立ったそれは使人と並び、しばらく会場を眺め回した。
程なくして歓声が途絶えたところをねらってそれは口を開いた。
「みなさん、こんにちは」
よく通る声だった。さすがは現在日本を象徴するスターだと遠野は思った。 続きを読む
2006年12月04日
オオサカ シリアス ナイト
その3
場内は暗くなったが、香山はまだ席に戻って来ない。美菜は時間をもてあますように会場を眺め回した。大きな大阪城ホール一杯に人が渦巻くようにして入っている。しかも熱気がすごい。この熱気はどこから来ているのだろう。美菜がそんなことを考えているうちに始まりの合図であろう、ファンファーレが音高く鳴った。
おごそかな雰囲気の中で、それははじまった。そこではじめて美菜は、これが新興宗教の集会らしいことに気が付いた。
続きを読む
場内は暗くなったが、香山はまだ席に戻って来ない。美菜は時間をもてあますように会場を眺め回した。大きな大阪城ホール一杯に人が渦巻くようにして入っている。しかも熱気がすごい。この熱気はどこから来ているのだろう。美菜がそんなことを考えているうちに始まりの合図であろう、ファンファーレが音高く鳴った。
おごそかな雰囲気の中で、それははじまった。そこではじめて美菜は、これが新興宗教の集会らしいことに気が付いた。
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2006年12月01日
オオサカ シリアス ナイト
その二
「待った?」
「いえ、今来たばかりです」
美菜は香山の目をまともに見ることが出来なかった。
「さ、行こう」
香山の腕が美菜の肩をやさしく抱く。瞬間、美菜は体をこわばらせた。まともに歩くことが出来ない。香山が放つ香りのいい香水に包まれ、ようやく美菜は歩をすすめることが出来た。
駅から出ると、いつの間にか雨は止んでいた。 続きを読む
「待った?」
「いえ、今来たばかりです」
美菜は香山の目をまともに見ることが出来なかった。
「さ、行こう」
香山の腕が美菜の肩をやさしく抱く。瞬間、美菜は体をこわばらせた。まともに歩くことが出来ない。香山が放つ香りのいい香水に包まれ、ようやく美菜は歩をすすめることが出来た。
駅から出ると、いつの間にか雨は止んでいた。 続きを読む